イタリアの高級カスタムカーブランド「アレス・デザイン」は、「レジェンド・リボーン」シリーズの第一弾として、1970年代の名車「デ・トマソ・パンテーラ」を21世紀の最新技術で蘇らせた。
アレス・パンサーは、外観はデ・トマソ・パンテーラをモチーフにし、中身はランボルギーニ ウラカンをベースとするイタリアを代表する新旧スーパーカーを巧みに融合させた高級カスタムカーだ。
さて、「アレス・デザイン」とは、聞き慣れないブランド名である。
それもそのはず、「アレス・デザイン」は、前ロータスCEOのダニー・バハール氏によって2015年に設立され、その歴史はわずか4年足らずしかない。
しかし、フェラーリで有名なイタリアのモデナに本拠地を構える「アレス・デザイン」は、メルセデス・ベンツGクラス、ポルシェ911 GT3、ベントレー ミュルザンヌなどのカスタムカーを手掛けており、その独創性には、世界中から熱い視線が注がれている。
それでは早速、アレス・パンサーとはいかなるクルマか、見ていくとしよう。
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▶デ・トマソ・パンテーラを再現したスタイリング
アレス・パンサーのエクステリアは、地面から高いところに位置した尖がったフロントノーズから始まり、リトラクタブル・ヘッドライト、リアバンパーの中央部から突き出した4本のテールパイプ、ホイールデザインに至るまで、正真正銘、デ・トマソ・パンテーラの再来と言って過言ではない。
そして、見た目こそ往年の名車であるボディは、最新の軽量素材であるカーボンファイバー製。驚くことなかれ、部分的ではなく、フルカーボンである。その結果、特殊なボディ形状にもかかわらず、車重はベースとなるウラカンとほぼ同じの1,423㎏だ。
▶ボンネットの下にはウラカンが眠っている
エンジンは、ウラカンの5.2ℓ自然吸気V10がベースとなるが、ECUチューンと専用のエキゾーストシステムの採用により、最高出力は610psから650psへと強化されている。最大トルクも、560Nmから600Nmへと向上。トランスミッションは、専用のシフトプログラムへと書き換えられた7速LDFが組み合わされ、四輪全てを駆動する。
パフォーマンスは、0-100㎞/h加速が3.1秒。最高速度は325㎞/hに達する。ベースとなるウラカンより、0-100㎞/h加速では、コンマ1秒速い。
気になる走りの仕立ては、バハール氏がフェラーリやロータスで経営の指揮を執ってきた人物であることを考えると、スパルタンなサーキット仕立てとなるだろう。ちなみに、強靭なパワーを路面へ伝える足元は、アレスデザイン製の鍛造ホイールを履き、サイズはフロント20インチ、リア21インチとなる。タイヤサイズは、フロントが255/30 R20、リアが325/25 R21だ。もちろんブレーキは、ブレンボ製のカーボンセラミックブレーキ。
外観と中身の関係を知ると、オリジナルのデ・トマソ・パンテーラが、デ・トマソ製のボディにフォード製の大排気量エンジンを搭載した、2社の合作モデルであったことを思い出す。
アレス・パンサーの場合は、2社の合作というだけでなく、新旧という時代の合作でもある。往年の名車の持つヴィンテージ感漂うカリスマ的な魅力を、21世紀の最先端技術で見事に再構築している。
当時、一世を風靡した栄光を、再び、後世でもつかみ取るかのように。
▶高級カスタムカーブランドならではの生産方式
「アレス・デザイン」は高級カスタムカーブランドである。したがって、顧客の要望に沿う「ビスポーク」と、熟練工による手作業での組み立て「コーチビルディング」は不可欠の要素。
顧客の要望に沿って、1台1台手作業により組み立てられるアレス・パンサーは、今年1月から本格始動したモデナの18,000㎡に及ぶ巨大な自社工場で、他のモデルよりも先んじて生産が開始されている。
この超高級カスタムカー、注文してから完成までにかかる期間は、およそ3カ月。
いち早く注文を済ませたオーナーには、早ければ今年5月頃に納車されるという。
▶今後の展開
アレス・パンサーの価格は、およそ7,770万円(2019年3月17日時点)から。ベースとなるウラカンの2.5倍以上の価格である。とはいえ、わがままがギッシリ詰まった世界でオンリーワンの「動くおもちゃ箱」は、プライスレスなのだろう。
「アレス・デザイン」は、かつて時代を席巻した名車のエッセンスを、21世紀の最新技術で蘇らせる。
今後も、アレス流の独創的な手法で、アレス・パンサーのような「懐かしさを纏った最新のスーパーカー」を、さらに世に送り出しくれるはずだ。
▶スーパーカーの新しい世界観
現代のスーパーカーは、強迫的なほどに、パフォーマンス至上主義である。
しかし、「アレス・デザイン」は、そんなパフォーマンス至上主義に一石を投じる。多少のパフォーマンスを犠牲にしても、美しさやカッコ良さを表現しても良いではないかと言わんばかりに。「パフォーマンスだけに支配されない、自由なデザインのスーパーカー」という価値観を生み出している。
エアロダイナミクスのことを考えると、地上からあんな高い位置にフロントノーズを持ってくることはない。風がもろにぶつかるリトラクタブル・ヘッドライトの採用など御法度だ。
現代のスーパーカーにあるまじきタブーを何の躊躇もなくサラリとやってのけてしまうところに、「アレス・デザイン」の確信めいた強い信念が見えてくる。
パフォーマンスに直結するデザインだけでなく、純粋に魅力あるデザインのスーパーカーがあってもいい。
そして、そんな新しい世界観に共感し、価値を見出してくれる人が必ずいる。
そして、社名にあえて「デザイン」という言葉を入れたのには、往年の名車がそのデザインから放つ普遍的な魅力を再興したいという思いが込められているのではないか。どれだけ時が経とうとも、「やっぱり、いいなぁ」と、しみじみと頷いてしまうのが名車の魅力。そして、そこに、デザインが持つ魅惑の芸術性が、未来永劫息づく。
良いものを残したい、蘇らせたいと思うのが人情だとしたら、アレス流のアプローチは異端でも何でもなく、とてもピュアなクルマ造りだ。
スーパーカーという大きな括りで見ると、ライバルは多いかもしれない。しかし、いぶし銀のシルエットに身を包む最新のスーパーカーという括りで見ると、そこには、ブルーオーシャンが広がっている。
イギリスのデイビッド・ブラウン・オートモーティブは、「アレス・デザイン」と同じようなアプローチで、クラシックなアストンをモチーフにしたスピードバックと、クラシックなミニの持つ魅力を現代流に見事に再現したミニ リマスタードというクルマを世に送り出している。
「アレス・デザイン」が踏み込もうとしているジャンルは、まだまだ、これからのジャンルである。
そこには、新たな挑戦と可能性しかない。
Photo source:ARES Design
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