ブガッティは、シロンをベースとしたサーキット志向のハイパーカー「ディーボ」を、8月24日にアメリカのカリフォルニア州で開催された「クウェイ・モータースポーツ・ギャザリング」で披露した。
40台の限定生産で、一台およそ6億5,000万円もするという超破格のハイパーカーは、すでに完売したそうである。
このディーボという車名は、「タルガ・フローリオ」で1920年代後半にブガッティ・タイプ35Bと35で2度の優勝を果たしたフランス人ドライバー「アルベール・ディーボ」に由来する。
「タルガ・フローリオ」とは、国際的なスポーツカーレースとしては世界で最も歴史が古く、イタリアのシチリア島にある山岳路を舞台に行われたレースである。
そんな過酷とも言えるレースから着想を得たディーボは、ブガッティのサーキット志向モデルとしてシロンとは異なるボディデザインとなり、俊敏なハンドリングとコーナーでの軽快なフットワーク、そして、これまでにない強力なダウンフォースを備えているという。
直線ではなくコーナーを駆け抜ける一瞬こそが至福の瞬間とされるディーボ。一体どのようなマシンなのだろうか。
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▶空力を追求したボディ
ベースとなるシロンを忘れさせるほどの、強烈な存在感を放つフロントマスクは、両サイドに設けられた縦長のLEDヘッドライトが鋭い眼光をアスファルトに向ける。そして、ブガッティのシンボルである馬の蹄鉄を模したフロントグリルは、口をあんぐりと開けたような巨大なエアインテークへと姿を変え、迫りくる風をすべて飲み込み、驚速でサーキットを駆け抜けるためのエネルギーへと変換する。
巨大なフロントスプリッターは、ダウンフォースの増大とエンジン冷却という2つの仕事をこなす。そして、ボディ両サイドには、トリコロールがあしらわれたサイドフィンを備える。ルーフには、ディーボのモンスターエンジンを冷却するエアダクトが設けられている。
シロンよりも23%ワイドになった巨大なリアウィングは、ドライブモードや走行状況によってウィングの角度を自動調整するだけでなく、エアブレーキ機能も備え、パフォーマンスに直結するダウンフォースの増大を図る。
シロンとは別物の空力対策が施されたボディは、90㎏のダウンフォースの増大に成功したようである。
後ろに回って、リアエンドに目をやると、3Dプリント技術で造られた独立する44個のLEDピンがテールランプを構成する。淡く真っ赤に煌めく様は、未来感漂う立体的なイルミネーションのようである。
ボディカラーは、チタニウム・リキッド・シルバーと、ディーボ・レーシング・ブルーの2トーンカラーとなる。一方、フェンダーはマットブラック仕上げとなり、エアアウトレット、スポイラー、ディフューザーはカーボンファイバー・フィニッシュが施されている。
ラグジュアリーなハイパーカーブランドであるブガッティは、ディーボが纏うボディで、究極のラグジュアリーとハイパフォーマンスを精妙に両立させている。
▶パワートレインは変わらない
ディーボはサーキット志向のマシンである。ならば、マシンはコントローラブルなものであることが要求される。いたずらにパワーアップをするのではなく、バランスを重視しなければならない。結果、パワーアップは施さず、シロンと同じパワートレインとなった。
8ℓW16クアッドターボは1,500ps/1,600Nmを発揮し、パワーウェイトレシオは驚愕の765ps/tとなる。2t近い巨体であるが驚愕のパワーウェイトレシオを誇るハイパーカーは、0-100km/h加速を2.4秒でこなし、最高速度はリミッター作動で380km/hに達する。
シロンと比較すると、パワーは同じであるが、0-100㎞/h加速はシロンより0.1秒速く、最高速度は40㎞/h低く抑えられている。このあたりからも、コーナーが連続するサーキットを意識したチューニングが施されていることが見て取れる。
ダウンフォースが90㎏増加したことで、横向き加速度は1.6Gへと増え、コーナリングスピードが向上した。その結果、イタリア南部のナルド郊外にある全長12.6㎞「ナルド・サーキット」では、シロンよりも8秒速いタイムを叩き出したという。
しかし、このコースは完全な円形のコースであり、トップスピードでの耐久性テストを主たる目的としたコースであるので、通常のサーキットとは全く構造が違う。つまり、インディ500のようなコースであるから、実際のサーキットでどれほど速く走れるかは、謎に包まれたままなのである。
▶軽量化と足回り
ディーボは、カーボン製のインタークーラーカバー、軽量ホイール、遮音材の削減により、35㎏の軽量化を果たしている。それでも、車重は1,961㎏と2t近い巨体である。
軽量化に加え、足回りのチューニングも施され、サスペンションのキャンバー角を増やすことで、コーナリングスピードの向上を図っている。
90㎏のダウンフォースの増加、1.6Gへと増加した横向き加速度、35㎏の軽量化とサスペンションチューニングが相まって、シロンよりも俊敏なハンドリングと、コーナーでの軽快なフットワークが実現した。
▶レーシーだが、ラグジュアリーなコックピット
コックピットは、マット仕上げのカーボン製パネルがしつらえられており、「ディーボ・グレイ」という専用カラーのアルカンターラ製シートが鎮座する。このシートは、サイドサポートがシロンよりも優れている。そして、サーキット走行での疲労軽減のためであろうか、シロンよりも大きなアームレストと、カーフレストが設けられている。
アルカンターラで覆われたステアリングには、サーキットでの操作性を向上させるために長くなったパドルシフトが備わる。
レーシーな演出がなされているものの、ベースとなる豪華なシロンの内装の造りはそのままである。そして、「ディーボ・グレイ」に、鮮やかな「ディーボ・レーシング・ブルー」が華やかにアクセントを利かせている。
やはり、他のサーキット志向のマシンとは一線を画すラグジュアリーさだ。
レーシーだが、ラグジュアリー。
そんな言葉がぴったりのコックピットではないだろうか。
▶復活したコーチビルディング部門
ブガッティの創業当初にあったコーチビルディング部門は、ディーボの誕生を機に復活することとなった。熟練工による手作業での組み立てを意味するコーチビルディングは、複雑で繊細なボディとメカを搭載するディーボには最適な生産方式なのだろう。
コーチビルディング部門にとっても復活第1作目となるディーボには、職人の並々ならぬ思いが込められて仕立て上げられたに違いない。
▶ニュルブルクリンク最速を目指すのか
ブガッティといえば、直線での怒涛の速さがその代名詞であった。しかし、ケーニヒセグ アゲーラ RSに直線での市販車世界最速の王座を明け渡した今、ブガッティはコーナーを制すべく、ディーボを生み出した。
ディーボは直線で奪われた王座をコーナーで奪い返すべく、ニュルブルクリンク北コースで世界最速を本気で目指すのか。今後の動向に注目したい。
本気で目指すとなると、同じワーゲングループのランボルギーニ アヴェンタドールSVJに戦いを挑むことになる。アヴェンタドールSVJはつい最近、ドイツのニュルブルクリンク北コースにおいて市販車世界最速となる6分44秒97というタイムを叩き出した。
さて、ディーボはニュル最速の称号を手にするという「初戴冠」を実現できるか。
今後の動向に目が離せない。
Photo source:BUGGATI
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