宝石のような精妙な輝きを放つエメラルドグリーンのマクラーレン・セナは、大西洋を渡った。ニューヨークで、今か今かと待ちわびるオーナー、マイケル・フック氏の元へとやって来たのだ。
これこそ、マクラーレン・セナが初めて北米のガレージに収まった瞬間である。
この特注のセナはMSOによって組み立てられ、何とボディパネルはフルカーボン製であり、特注カラーであるエメラルドグリーンはコックピットの中にも貫かれており、鮮やかなホワイトレザーと組み合わされている。
レーシーなカーボン製マテリアルと、上質なレザーが絶妙なハーモニーを奏でる。
エレガントなスーパーカーである。
マクラーレンが誇るトップレンジ「アルティメットシリーズ」の最新モデルであるマクラーレン・セナは、500台限定。しかし、すでに完売。500台のおよそ3分の1が、世界の富が集中する北米からの注文だ。
今回の特注セナのオーナーであるマイケル・フックス氏は、起業家であると同時に慈善事業家としての顔も持つ。そして、熱心なカーコレクターとしても世界的に有名だ。
フックス氏の審美眼は、高級ブランドが誇る一流デザイナーと熟練工が丹精込めて造り上げたモデルに注がれる。彼の目に留まったクルマは、寵愛の証である天井知らずのフックス仕様が細部に至るまで施される。そして、鳥のヒナを両手で優しく抱えて巣に戻してやるかのように、大切にガレージへと収められる。
それでは、北米第1号となる特注セナから、究極のビスポークとは何たるかを探ってみることとしよう。
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▶ビスポークを極めた芸術品レベルのエクステリア
エクステリアにおいて最も注目すべきは、「フックス・グリーン」と名付けられた特注カラーのエメラルドグリーンのカーボンファイバー製ボディだ。光の当たり具合で幾重にも表情を変える。
マクラーレン・セナのボディは、67のパーツから構成されているが、そのカーボン製のパーツ全てに特注カラーの塗装が施されいる。完了するまで、何と1,000時間を要したというのだから、絶句する。
通常のマクラーレン・セナを1台完成させるまでに要する時間が300時間であることを考えると、「フックス・グリーン」の塗装がいかに途方もない作業量であるかが分かる。
そして、ホイールのセンターロックナットは、右がブルーで左がレッドと左右で色が異なる。
磨き上げられた日本刀の刃先のような鋭くも美しく輝くホイールは、シャープなハンドリングとフットワークで、サーキットを美しく舞うような究極の走りを予感させる。
徹底したこだわりを形にするというフックス氏とマクラーレンの関係は、さながら時の権力者や富豪がお気に入りの画家に自らの肖像画や好みの絵を描かせ、後にとんでもない価値が認められた芸術的な絵画になることを連想させる。
そして、これこそが、「究極のビスポーク」なのかもしれない。
▶フックス・グリーンが貫かれたコックピット
グロスフィニッシュ加工が施された「フックス・グリーン」はコックピットでも、その妖艶な輝きを失わない。
そして、ステアリング、超軽量のカーボン製レーシングシート、ドアトリムなどは鮮やかなホワイトレザーで仕立てられており、グリーンのステッチがアクセントを利かせる。
陰影あるエメラルドグリーンと神々しいホワイトが見事に融合。そこにけばけばしさは無く、ただただ、その超俗的な美しさに吸い込まれる。
▶斬り切り舞うパフォーマンス
伝説のF-1ドライバー「アイルトン・セナ」の名を冠したアルティメットシリーズの最新モデルは、「公道を走る最もレーシングカーに近いクルマ」と称さる。マクラーレンが提供する、ドライバーとマシンの究極の一体感を味わえる最高のマシンだ。
4.0ℓV8ツインターボエンジンは800ps/800Nmを誇り、0-100㎞/h加速は2.8秒でこなし、0-200㎞/h加速は驚きの6.8秒で、最高速度は340㎞/hに達する。
比べてはいけないが、ゴルフGTIが100㎞/hに到達する頃、セナは倍の200㎞/hに到達している。その空気を斬り裂くような強烈な加速力には、恐怖すら感じる。
それもそのはず、フルカーボン製の「モノケージIIIモノコック」シャシーにより、マクラーレン史上最軽量の1,198㎏のボディに800psを備えたことで、パワーウェイトレシオは驚愕の668ps/t。息をのむ加速力は、論理的必然なのだ。
驚きの数値は、まだ終わらない。
マクラーレンの公式は、「ハイパワー × 徹底した軽量化 × 空力の最大化」である。エアロダイナミクスを最大化すべくデザインされたボディは、見た目ではなく、いかにダウンフォースを増やせるかを念頭において開発されている。
「機能に沿ったフォルム」には、可変フロントエアロブレードと可変リアウィングが備わる。250㎞/h走行時のダウンフォースは、800㎏に達する。
1,200㎏にも満たないボディに、800㎏もの重さが圧し掛かる。マシンが路面にピタリと張り付く感覚は、超高速コーナリングを攻略する快感を、最高潮まで引き上げてくれるはずだ。
約2週間前にデビューした600LTの250㎞/h走行時のダウンフォースが100㎏であることを考えると、8倍のダウンフォースを持つセナは、マンガを通り越して宇宙人にすら見えてしまう。
そして、油圧サスペンションであるレースアクティブ・シャシー・コントロールIIが、強烈な加速、超高速でのコーナリング、過酷なブレーキングにおいて異次元の安定性を提供する。
さらに、次世代型レース仕様のカーボンセラミックブレーキを備え、専用開発した「ピレリP ZERO™ TROFEO R」タイヤを履くことで、破綻を許さないグリップと路面からのクリアなインフォメーションを伝える。空気を斬り裂く強烈な加速と、切れ味鋭いハンドリングを思う存分愉しめる。しかし、そこまでポテンシャルを引き出せるかは…ドライバー次第。
風を味方につけたマクラーレン・セナが相棒であれば、超高速コーナーでの恐怖は歓びへと変容する。その先には、未だかつてないタイムが現れるだろう。
▶今後の展開
今回紹介したフックス氏の特注セナは、モントレー・カー・ウィーク期間中の8月24日に開催される「クウェイ・モータースポーツ・ギャザリング」で披露される。
ちなみに、フックス氏は特注セナの他に、「フックス・フクシア(赤紫)」という特注カラーの720S、マクラーレン・オレンジの12C、パープルの12Cスパイダーを所有しているようだ。
4台ものマクラーレン…
▶スーパーカーは全能感を体現する
クルマを愛する者にとって、マクラーレン・セナのようなスーパーカーは、その姿を眺め、エンジン音に耳を立て、疾走する風を肌で感じるだけでも満足する。
セナのようなスーパーカーが持つ魅力には、他をねじ伏せる強靭なパワー、異次元のコントロール性能、他を圧倒するパフォーマンスという全能感のようなものがある。
我々はスーパーカーに理想の自分像を投影させ、現実世界では決して叶わないその全能感を疑似体験し、楽しんでいるのである。
疑似体験の全能感は、本質的にバーチャルなものだ。実際に所有していようがいまいが、その楽しみは求める者すべてに平等に与えられる。
音速の貴公子「アイルトン・セナ」は、全能のスーパーカー「マクラーレン・セナ」となって、今もなお、我々の心を掴んで離さない。
Photo source:McLaren
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