マクラーレンのエントリーモデル「570S」のサーキット走行も楽しめる高性能版「600LT」がいよいよ今週の木曜日6月28日にネット上で公開される。

そして、600LTは7月12日にイギリスのウェスト・サセックス州で開催される世界的なモータースポーツイベント「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」で正式発表されることとなる。

この正式デビューを控え、600LTはドイツのニュルブルクリンクサーキットでの最終テストに余念がない。600LTは570Sよりもパワフルで軽く、空力をアップさせたモデルとなり、一つ上のスーパーシリーズ720Sとの間を埋めるモデルでもある。

なお、車名の最後にある「LT」という頭文字は、マクラーレン「F1 GTR」の「ロング・テール」に由来し、直近では675LTがその名を継承している。「LT」の意味は、長くなったボディにより空気抵抗が抑えられダウンフォースが増し、サーキットでより速く走れる「サーキット志向の車」と言うことだ。

570Sのサーキット志向の車、600LTである。

▶マクラーレンの公式

600LTには、その名の通り600psと予想される3.8ℓV8ツインターボの改良版が搭載され、570Sよりも大きくなったサイドベントがより多くの空気をパワーアップしたエンジンへと送り込み、7速SSGを介して後輪が路面を強力に蹴り上げ疾走する。パワーアップ × 徹底した軽量化 × 空力の最大化、これら3つの要素はマクラーレンの高性能化では必須であり、その公式は次のようなところにも垣間見られる。

600LTのエキゾーストは、カーボン製のカバーに覆われたエンジン後方の中央部に2本顔をのぞかせる。570Sと違い、テールパイプがエンジンから直接突き出す格好となった理由は、排気系の軽量化と大型化したリアディフューザーのためのスペース確保であるという。

この辺りの設計を見ても、マクラーレンの軽量化の徹底と空力の最大化に対するブレないハイパフォーマンスカーの哲学が貫かれている。

そして、それはただ速く走るためだけのものではなく、けたたましいエンジン音が非日常の始まりを合図するホイッスルのように鳴り響き、エンジンから伝わる振動が全身を駆け抜け、もう一人の自分を覚醒させるのだ。

▶妥協なき軽量化と空力性能の向上

600LTはエアロパーツの改良によって、570Sの3倍近いダウンフォースを生む空力性能の向上が図られているようだ。

サーキット走行に不可欠な強力なダウンフォースは、専用の大型フロントスポイラー、空力性能を徹底的に理詰めして造り込まれた複雑な形状のサイドスプリッター、もはやテールパイプのスペースも許さない大型のリアディフューザー、そして600LTの象徴である左右に大きく伸びたリアウィングによって生み出される。

もちろん、軽量化も徹底されるようで、675LTが650Sより100㎏の軽量化を果たしており、600LTも同様の軽量化が施され、その車重は1,340㎏～1,350㎏ぐらいになると予想される。

繰り返しになるが、パワーアップ × 徹底した軽量化 × 空力の最大化というマクラーレンの高性能化の公式が見事に徹底されている。そして、足回りは570Sのアダプティブダンパーが専用チューンを施され、少し硬めのセッティングになると思われる。。

とはいえ、スポーツシリーズというカテゴリーに属するクルマであるので、公道とサーキットをボタン一つで最適化してくれる緻密なセッティングを、絶妙の塩梅で仕上げてくるのではないだろうか。

▶限定生産は必至

マクラーレンは具体的な生産台数は明言していないものの、600LTが限定生産になることは認めている。

675LTと同様に、500台前後の限定生産となるかは現段階では分からないが、675LTのように受注開始後間もなく完売し、675LTスパイダーという形で追加生産される可能性は高い。なぜなら、600LTは675LTよりも穏やかにまとめられており、バリバリのサーキット志向の顧客よりも間口が広いからだ。

とはいえ、価格は夢のスーパーカープライス。

日本円で、およそ2,900万円(2018年6月26日時点)からとなりそうだ。

▶レーシーなオプション装備

吊るしで約3,000万円近くするクルマにオプションなど必要あるのだろうかと思うが、天井知らずの富裕層を顧客に持つスーパーカーブランドは、顧客の要望に応え特別な一台へと仕立て上げてくれるMSO（マクラーレン・スペシャル・オペレーションズ）という部門がある。

MSOは600LTのオプション装備として、各種パーツのカーボン素材への変更、より軽量化されたホイール、防音材の削減、チタン製のエキゾーストなど、サーキット志向をより本格化させるアイテムを豊富に取り揃えるだろう。

▶ライバルはライバルにあらず？

マクラーレンは、外観や内装の演出は他のスーパーカーに比べると控えめであるが、いざ乗るとそのパフォーマンスの高さに感激するクルマである。スーパーカーの常識を覆してしまった快適な乗り心地を実現し、しかもアクセルを踏み込めば、路面に吸いついているかのようなトラクションでしびれるほど速い。

そんなマクラーレンが世に送り出す600LTには、イタリアとドイツが誇る強力なライバルが立ちはだかる。

フェラーリ488ピスタ、ランボルギーニ ウラカン ペルフォマンテ、メルセデスAMG GT-R、ポルシェ911 GT3である。ライバルの名前を眺めながら、ふと頭に浮かぶ。

タイムを競うことを考えればライバルだが、各ブランドが丹精に造り上げた一つの芸術品であると考えると、比べようがないくらいどれも魅力的で、それぞれが愛おしい個性の持ち主なのである。

Photo source：McLaren